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国谷裕子さんの「SDGs」のお話

6月16日(日)午後、まつもと市民芸術館で開催された『信州岩波講座/まつもと2019』で、国谷裕子さんによる「持続可能な未来のために SDGsが私たちに問いかけるもの」を聴講しました。

さすが、NHK「クローズアップ現代」を23年間担当されたキャスター!
2時間の講演中、原稿も見ず、滔々と、様々な調査の数値データを言い淀むことなく、「伝えたい!」という熱い思いが言葉となってあふれ出てくるようでした。
今朝の新聞によれば、聴講者数は約1,500人!
SDGsとパリ協定の関連性についてわかりやすく解説され、地球温暖化防止活動に携わる者にとって、とてもためになる内容でした。
少し長くなりますが、メモできた範囲で要旨を紹介します。
なお、信濃毎日新聞6/22付文化面に、講演の詳報が掲載されるそうです。お楽しみに♪

🌏SDGsとパリ協定は表裏一体
SDGs(持続可能な開発目標)は、国連70周年にあたる2015年9月に、
産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑え、1.5℃未満を目指す「パリ協定」は同年12月に採択された。
*2018年10月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「1.5℃特別報告書」を公表
「飢餓」も「水不足」も気候変動が複合的に絡んでおり、SDGsの目標を達成するには、地球温暖化を抑えなければならない。
SDGsとパリ協定は両輪となって、国、自治体、市民社会のあり方すべてを規定するもの。

🌎SDGsとの出会い
2030年にこうありたいと目指す世界から逆算して何をすべきかを考えるSDGs。
NHKキャスターだった2015年、国連総会の取材準備で出会い、
社会・経済・環境の問題を統合して捉え、踏み出そうとするSDGsの考え方が、新鮮に映った。
食糧不足解消のための農地開発により、森林が破壊され、大量の温室効果ガスが発生してしまう、など、
ある問題の解決策を講じた結果、別のより深刻な問題を引き起こしてしまうケースを報道することがあったので。

🌍他人事ではなく、すべての課題は”自分事”として考えてほしい。
たとえば「水不足」。
世界を見ると、人口増大・気候変動で、淡水が大幅に不足している。
水資源の豊かな日本の私たちには関係ないか?というと、日本の食料自給率は38%で、小麦などの食料を輸入に頼っている。
日本が輸入する食料を生産するために海外で大量に使われている水(”バーチャルウォーター”と呼ぶ)を考えると、無関係ではない。
さらに、日本は年間3億ℓものミネラルウォーターを輸入しているという現実が!

さらに「飢餓」の問題。
飢餓人口は世界で8億2,100万人にのぼる一方、日本では、まだ食べられるのに捨てられている食品が643万t!
結果的に無駄になっている食料生産のために排出されたCO2は、人間活動によって排出される量の8%を占めている。

🌏危機感を共有して行動してほしい。
SDGsの前文には、「地球を破壊から守る」「誰一人置き去りにしない」という決意に加え、
「我々は地球を破壊から守る可能性を持つ最後の世代になるかもしれない」という非常に重い言葉、強い危機感が示されている。

SDGsの背景として挙げられるのは、
❶ミレニアム開発目標の未達成課題 ❷地球環境の限界 ❸新たな社会現象と不安定化する世界 だが、なかでも背中を押したのが❷。
私たちの命を支える地球システムが、人間活動によって破壊されるかもしれない、このままでは地球は持たない、
という危機感をいかに多くの人々が共有し、いかに行動できるかが大事。

❷で最も身近なのは気候変動。
5月に北海道で40℃近く。昨夏の埼玉は史上最高気温を記録、高潮や巨大化する台風など、異常気象は地球温暖化と関係している。
CO2の排出量は日本は減ってきているが、CO2の平均濃度は観測史上最高を記録。

🌎連鎖する悪循環
地球の資源には限界があるのに大量生産・大量消費する「経済」。豊かな人と貧しい人の格差が広がる「社会」。悲鳴を上げる地球環境。
それらの課題が連鎖して、さらに厳しい状況を作り出す”悪循環”も生まれている。
たとえば、
気候候変動の影響➡不作・水害・ヒートアイランド➡雇用喪失・貧困悪化➡都市への人口流入➡格差拡大・貧困悪化➡テロ組織への勧誘
といった具合に。

地球環境の悪循環のなか、どうやって生きていくのか。
今、世界の人口は75億人だが、2050年には98億人に増え、食料は50〜70%、今より多く必要になるとの試算がある。
人口急増のための飢餓や貧困をなくすには、食料の安定供給が必要だが、気候変動が食料生産に大きな悪影響を与える、極めて難しい状況。
イノベーションと農業システムの変革が緊急に必要。
SDGsは、「持続可能の方向にみんなで変革しよう、相乗効果から大きな成果が生み出される」というメッセージが織り込まれている。

🌍プラスチック問題
ともすると、「海洋汚染」にばかりフォーカスが当たりがちだが、本来、気候変動対策に資するもの。
脱炭素社会に向け、”燃やして処分”は限りなく少なくし、プラスチックの再利用、削減に積極的に進むべき。
生分解できるプラスチックのイノベーションも進められるべき。
5月末に政府が発表した『プラスチック資源循環戦略』には、「使用済みプラスチックを2035年までに100%リサイクルする」とあるが、
焼却処分を許容している!リサイクルやリユースより、焼却処分は簡単にできるが、地球環境を考えると、疑問が残る。

🌏温暖化対策は肥満対策と同じ。
どちらも放置するといろいろの疾患が併発し、選択肢が狭まる。遅くなればなるほど、急激な対応が求められる。時間切れになる。
石炭火力発電所建設と、二酸化炭素排出量削減とは矛盾する。“環境正義”を考え、倫理的に行動するべき。

企業にとって、エシカル、倫理的である意味は何か?
自分の働いている会社が、社会に対してどう向き合っているのか、めざすビジョンが明確で、社員が共感して仕事をすることが大事。
社会に貢献しているという実感を持って仕事に当たれば生産性も上がり、会社の業績にもつながる。

孫のため、子どものため、蛸壺から脱して、世代間も連携して取り組んでいかなければならない。
危機感を共有し、地域地域で持続可能になるよう取り組んでいただきたい。

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2019年06月17日