シンスマ最前線 南信州広域タクシー有限会社

公共交通からの脱炭素化を目指して

南信州圏域の中心都市、飯田市。ここに、公共交通の脱炭素化に向けた取組みを着実に進める事業者があります。
南信州広域タクシー有限会社。エコドライブの実践、EV車両の導入に加え、飯田脱炭素社会推進協議会への参加など地域での活動にも積極的に取り組み、近年では、エコドライブ活動コンクール最高位受賞、ゼロエミッションタクシーの実現など、目覚ましい成果を上げています。
高い目標にチャレンジし続ける、同社の取組みやその原動力についてお話を伺いました。

はじまりはグリーン経営

―2023年度のエコドライブ活動コンクール、国土交通大臣賞受賞、おめでとうございます。

鈴木代表取締役社長・佐藤専務取締役(=以下敬称略) ありがとうございます。

―はじめに、エコドライブに取り組むようになったきっかけを教えてください。

鈴木 弊社は、2008年にグリーン経営認証を取得して、現在まで継続しています。これは、環境負荷の少ない事業運営を行う運輸事業者を認証するもので、取得には、①エコドライブの実践、②低公害車の導入、③車両の管理や廃棄物の処理についての一定レベル以上の取組みが求められます。エコドライブの実践は、グリーン経営に必要不可欠です。

―なぜ、グリーン経営認証を取得しようと思ったのですか?

鈴木 我々緑ナンバーの企業は、24時間365日、公道を使用させていただいて、化石燃料を使い、当たり前のようにCO2を排出して営業しています。だからこそ、率先して環境に配慮した経営に取り組むべきだと考えました。

✱公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団が実施している、環境保全を目的とした取組みを行う運輸事業者(トラック・バス・タクシー・旅客船・内航海運・港湾運送・倉庫)を認証する制度。詳しくは https://www.green-m.jp/

エコドライブを「あたりまえ」に、「自分ごと」に。

―エコドライブにどのように取り組まれているのかお聞かせください。

鈴木 「エコドライブが全従業員にとって『あたりまえ』になること」を目指しています。
弊社のドライバーには、始業時にエコドライブに関する目標を立ててもらいます。目標は、車内に携帯しているテキスト(「LET’Sスマートドライブ」や「エコドライブ10のすすめ」)から選んでもらいます。そして、目標を意識しながら一日業務を行ってもらい、終業時に報告を受け、フィードバックします。それを毎日繰り返すと、意識しなくても自然とエコドライブができる段階に達します。レベルの向上に合わせて燃費もどんどん向上します。
そのほか、燃費改善率に応じた表彰制度、請求書からの燃費管理、グリーン経営やエコドライブ運転に関する研修など、エコドライブの実践・管理・整備・教育を「あたりまえ」に行っています。

佐藤 「信州スマートムーブ通勤ウィーク」にも毎年参加しています。今年はエコドライブポータルサイト「ReCoo(レクー)」で参加者の燃費をデータ化してみたのですが、マイカーの燃費がすごく向上したんです。社用車と同じか、いや、それ以上かもしれない(笑)。マイカーの燃料代は家計に直接影響するので、“自分ごと”として捉えたことが、効果に結びついたのかもしれません。
以前は、「南信州エコ・ドライブ1000人プロジェクト」という無料のエコドライブ実践講習会を、行政や地元の自動車学校と協力して開催していました。参加された方はエコドライブの燃費向上効果に驚かれていましたよ。行政と地元企業が連携して、エコドライブを広めていく取組みも重要だと思います。

https://www.recoo.jp/

大切なのは、積み重ねること。

―「あたりまえにする」と「自分ごととして捉える」、重要なキーワードだと思いました。
「ReCoo(レクー)」はエコドライブの向上に有効なツールですね。ご紹介ありがとうございます。
次に、今年度のエコドライブ活動コンクールで最高位を受賞された理由はどのようにお考えですか?

鈴木 エコドライブの実践をはじめとした地道な取組みを継続してきたことが一番の理由だと思います。弊社はエコドライブ活動コンクールに2009年から毎年参加していますが、その間、ゼロエミッションタクシーの実現やエネルギーの地産地消といったハード面の整備も進めてきました。そうした取組みの積み重ねが評価されたと考えています。

事務所には、国土交通大臣賞の賞状と盾(左)のほか、多くの表彰状や認定証が飾られている。

ゼロエミッションタクシーの実現へ。

―今、「ゼロエミッションタクシーの実現」や「エネルギーの地産地消」のお話が出ました。ぜひ詳しく教えてください。

鈴木 エコドライブが最高レベルに達すると、運転面(ソフト面)ではそれ以上のCO2の排出削減が難しくなります。そこでEV車の導入などのハード面の整備が必要になります。
弊社は、2011年にEV(初代日産リーフ)を2台導入しました。これは北陸信越運輸局管内で初めての例で、まず「走る」場面でのゼロエミッションに着手しました。
次いで2013年には、本社事務所と車庫に太陽光発電施設を設置し、電気を「作る」場面のゼロエミッションも始めました。2022年には、夜間や雨天時の使用電力を賄うために非化石証書を購入し、電気を「買う」場面でもゼロエミッションを達成しました。「作る」場面ではおひさま進歩エネルギー㈱、「買う」場面では飯田まちづくり電力㈱という地元企業の協力をいただいており、地産地消のエネルギーです。
これと合わせて、航続距離が伸びた新型のEV(日産リーフ)を4台導入し、2023年には飯田市乗合4路線でのゼロエミッションタクシーの運行を実現できました。
そのほかにも、本社事務所にV2H機器を導入したことで、EV車やPHV車を災害時の非常用電源として使用できるようになりました。また、タクシーで使用するIP無線機は災害に強いという特長があります。これらを活かして、阿智村と「災害時における電力の供給に関する協定」を締結し、弊社のEV車両の電力を避難所等のライフラインの確保に、また、無線システムを素早い情報伝達のために、それぞれ提供することにしました。

✱人間の活動から発生するあらゆる排出(Emission)をできる限りゼロ(Zero)に近づけることを目指す理念や手法

(上)大活躍中の新型EV。前面と横面には長野県PRキャラクター「アルクマ」とリニア中央新幹線のイラストが描かれている。
   アルクマは水引バージョン。「そりゃ飯田ですから、迷わず水引を選びました(笑)。」(鈴木社長)
(下左)事業所車庫の屋根に設置された太陽光発電施設。晴天時は車両と事業所の全電力を賄える。
(下右)移動式のV2H機器。災害時にはEVやPHVの電力を避難所等に供給できる。

2つの原動力 ―社会的責任と、地域への想い―

―次々と高い目標にチャレンジして達成していく原動力はどこからくるのでしょう?

鈴木 一つは冒頭でお話ししたように、化石燃料を使いCO2を排出して営業する公共交通事業者として社会的責任を果たしたいという想いです。目標の達成にはハードルがあり、取組みが停滞した時期もありましたが、明確な目標を定め、ゴールに至る計画を立て、行動を積み重ねていけば、必ず達成できる、と思って取り組んできました。
もう一つは地域への想いです。弊社の所在地が飯田市でなかったら、こんなに真剣に取り組めなかったかもしれません。飯田市は「環境文化都市・環境モデル都市」として、環境保全に非常に熱心に取り組んでいます。行政の方々が先頭に立って真摯に取り組んでおられるので、私たち地元企業も、それを後押ししよう、同じ方向を向いて、それぞれの立場でできることをやってみよう、という気持ちになるんです。
阿智村との協定も同じです。阿智村は、「日本一の星空」を守るために積極的に活動しています。その姿勢に共感して、一緒に何かできるのではないかと考え、協定の締結を提案したのです。
地域への想いを基に、できることを地道に続けよう、そして少し背伸びをして、あと半歩、いや、あと一歩前に進んでみよう、そんな形で取り組んできました。

―ここ飯田下伊那地域への想いを聞かせていただきましたが、地域の環境マネジメントシステム「南信州いいむす21」への登録や、飯田脱炭素社会推進協議会への参加など、地域での活動にも力を入れていらっしゃいますね。

鈴木 「いいむす」も、今までの取組みの延長線上にあるもので、新しいこと、特別なことをやったわけではありません。できることを一歩ずつ継続していく、その積み重ねです。
協議会には、2007年から加盟しています。地元の関係者が集まって、同じ方向を向いて、それぞれができることを持ち寄って、お互いにフォローし合って進めてきました。

タクシーは“見られるもの” だから率先して取り組む

―今後の展望を聞かせてください

鈴木 タクシーって、もちろん乗り物ではありますけど、“見られるもの”でもあるんです。遠方から来られたお客様が、駅やバス停に降りて最初に目にするものって、タクシーなんです。
ちょっとイメージしてみましょう。リニアに乗って長野県駅(仮称)に降り立ったお客様が、駅から出てきた。最初に目にする乗り物は?タクシーではないでしょうか。

―信州にいらっしゃったお客様が最初に目にして、乗るのはタクシー。
確かにそうですね。

鈴木 そのタクシーがEVだったり、環境に配慮した車両だったら…。そして、エコドライブを実践していたら…。信州の第一印象というか、お客様が初めて感じる信州のイメージが、とても良いもの、爽やかなものになると思いませんか。
“見られる”のは県外からのお客様だけではありません。地元の方にも見られています。ご利用いただいた時とか、街を歩いている時やマイカーを運転している際に見かけることだってあるかもしれません。ふと目に入ったタクシーがEVだったり、自分の車の前を走っているタクシーがエコドライブをしていたら、「自分もEVにしてみよう」とか「エコドライブを試してみよう」と思っていただけるかもしれません。
私たち公共交通事業者が率先して取り組み、その姿を他の企業や市民の皆さんに見ていただくことによって、EVへの転換やエコドライブの輪が広がっていき、地域社会全体が脱炭素に向かっていく―そんなイメージを持っています。

本部営業所にて。鈴木社長(左)と佐藤専務(右)

とはいえ、エコドライブの実践といったソフト面は各企業の工夫次第で実現できますが、EV車の導入のようなハード面の整備には費用というハードルがあります。特に中小事業者にとってはかなり高いハードルなので、行政の後押しがあると非常に助かります。脱炭素化を進めなければいけないのはわかっているし、進めたいと思っている、でも…と躊躇している事業者も、後押しがあれば思い切って一歩踏み出せると思います。

佐藤 エコドライブは、誰もが手軽に実践できるCO2削減手段です。飯田市は、マイカーの保有台数やマイカー通勤率が全国的にもとても多い地域です。だからこそ、我々のような地域に根差した企業から、一般ドライバーの皆さんまでエコドライブを実践していくことが大切だと思います。
今後も、CO2を排出して営業する全ての公共交通事業者の「先導役」として、取組みを進めたいと思います。

✱都道府県別で長野県は「自家用乗用車の世帯当たり普及台数」が第6位(一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)

―今日は、公共交通の脱炭素化への強い想いをお聞きすることができました。ありがとうございました。

(上左)飯田市上殿岡の本社営業所。(上右)事務室では明るく落ち着いた雰囲気で業務が進められていた。
(下)本社営業所までは長野市から高速バスで約3時間。伊賀良バス停を降りると、左手に風越山[左]、右手には南アルプスの山々[右]を
   望むことができる。

取材させていただいた事業者

南信州広域タクシー有限会社
〒395-0153 長野県飯田市上殿岡717-4番地
☏0265-28-2800 ✉apple.cab@topaz.ocn.ne.jp
https://apple-cab.com/

長野県●令和5年度「マイカー移動からの転換等促進事業」