シンスマ最前線 諏訪市ゼロカーボンシティ推進室

脱炭素 plus X ―持続のカギは“組み合わせ”―

「御神渡り」、「御柱祭」、「諏訪五蔵」、「諏訪湖」に「温泉」。
魅力がたくさん詰まった諏訪市がゼロカーボンシティ宣言を行ったのは、令和4年3月26日のこと。
令和5年度からは、その実現に向け「ゼロカーボンシティ推進室」を設置。
これまでに、全国的な注目を集めた「置き配バッグ活用実証実験」など、ユニークな企画に次々と挑戦しています。
今回は、スマートムーブを中心に、取組みの詳細や、独自の企画を生み出すアイデアの源について伺います。

入口はたくさん、ハードルは低く

―本日はよろしくお願いします。

ゼロカーボンシティ推進室 主査 茅野貴之さん(=以下敬称略) よろしくお願いします。

―市役所のエントランスで動画やパネルの展示を拝見しました。ちょうど「ゼロカーボンクエスト スマートムーブ編」が流れていましたよ。ファミコン世代には懐かしさを感じる映像にシンプルなメッセージが組み合わされていて、クオリティの高さを感じたのですが、どのように作られたのですか?制作会社にオーダーされたとか?

茅野 あの動画は、当室の職員で制作しました。

―職員の方が!…驚きです。

茅野 はじめは職員専用のWebページに掲載していたのですが、市長から「一般にも公開したら?」と提案があり、「え、いいんですか?」みたいな流れになりまして。動画は他にも「食ロス」編や「ZEH」編などがあって、YouTubeにもアップされていますし✱1、駅前交流テラス「すわっチャオ」✱2や、脱炭素に関する連携協定を締結している諏訪信用金庫店舗内のデジタルサイネージでも放映されています。
パネル展示もそうなんですが、お客様に “ついで”に見ていただけるように、内容はシンプルにしました。ふと動画や展示を見て「あ、何かやってる。へぇ、ゼロカーボンか。」くらいの印象を持っていただいて、取組みを知っていただく“入口”になれば十分かなと。企画を考える際には、まずは「入口をたくさん」作って、「ハードルを低く」することを意識しています。

✱1 諏訪市公式チャンネル(ゼロカーボンチャンネル)
https://youtube.com/playlist?list=PLkl5OWLh0OfHzMnXOBhZX40tRflJfNRxv&si=fwp6W3w1O8dBYJs4

✱2 諏訪市が2019年5月に開設した公共スペース。JR上諏訪駅から徒歩30秒。イベントスペース、ホール、学習室のほか、キッズコーナーやコワーキングスペース、スタジオも備えている。詳しくは諏訪市HP( https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/30/4484.html

市役所エントランスの展示。「ゼロカーボンクエスト」の背景は、なんと諏訪湖と諏訪の街!クリエイター並みのこだわりが感じられる。

市役所でのスマートムーブ ー脱炭素 plus 交通安全―

―「スマートムーブ」について、諏訪市の取組みを教えてください。
県と当センターが実施する「信州スマートムーブ通勤ウィーク」✱3では、ノーマイカー通勤にもチャレンジされていますね。

茅野 そうですね。諏訪市も他の地方都市と同じく公共交通機関が少ないため、市役所職員も自動車通勤が多いのですが、通勤自治会が主体となり、できる範囲でノーマイカー通勤にチャレンジしています。「通勤ウィーク」の時期(例年9月)は陽気もいいので、自転車で通勤する職員もいます。
エコドライブについては、職員向けの交通安全学習会を実施していて、新規採用職員を含めた職員が受講しています。交通安全係長から、安全運転の重要性について事故事例を交えて講義をしてもらいますが、講義の前にエコドライブについてゼロカーボンシティ推進室から説明をしています。エコドライブには「車間距離にゆとりをもつ」や「減速時には早めにアクセルを離す」など、CO2削減だけでなく、安全運転に繋がる要素もあるので、同時に学ぶことで意識が高まります。
これに限らず、脱炭素に向けた取組みは、他の何かと組み合わせることで、より大きな効果があると考えているんです。

✱3 詳しくは当センターHP( https://nccca.or.jp/challenge/shinsma/

デコツーリズム inすわ ―脱炭素 plus 観光・健康―

―組み合わせることでより大きな効果、素晴らしい発想ですね。
では、スマートムーブに関して、「交通安全」以外にも何かと組み合わせた取組みはありますか?

茅野 スマートムーブと「観光」「健康」を組み合わせた「デコツーリズム inすわ」というイベント✱4を、この2月に開催しました。参加者は、徒歩・自転車での移動を「SPOBY」というアプリでポイント化して、環境に配慮した取組みを行っている店舗で、お菓子やドリンク、温泉無料入浴券などの特典と交換することができます。春~秋に比べて街が少し寂しくなってしまう時期の集客アップも兼ねて、諏訪の街を楽しみながらスマートムーブをしていただこう、と企画しました。

―そのアプリは、参加者の移動手段を判別できるんですか?

茅野 はい。歩くときや自転車をこいでいるときと、車や電車に乗るときでは、スマホが感知する振動や動きが異なるので、それを利用して判別するそうです。

―ユニークな企画ですが、どのように発想されたのでしょう?

茅野 「諏訪市ゼロカーボンシティ宣言」には、現在160を超える事業者から賛同をいただいていて、その皆さんと一緒に何かしたい、という想いがありました。また、一般の方が楽しみながら参加できる、インセンティブやゲーム性のある企画を立ち上げたいとも考えていました。そんな中で ㈱スタジオスポビーさんから「脱炭素」と「健康」をテーマとしたアプリを活用した事業をご提案いただき、これに「観光」を組み合わせて、市民も観光客も参加できるイベントにアレンジしたらどうかな…、というところから始まりました。
市民や観光客と一番接する業種はサービス業なので、店舗を回って協力をお願いしたところ、皆さん、はじめは「うちみたいな店が、何かできることあるの?」とおっしゃって…。環境への配慮をハードルの高いものと捉えていたようです。そこで、普段の取組みをお尋ねすると、「最新の空調機器に入れ替えて省エネした」、「食品ロスや過剰包装の削減に取り組んでいる」、「諏訪は水がおいしいので、マイボトルを持参したお客様にお冷やを提供している」といったお話が出てきました。環境に配慮した取組みをごく自然にされていたんです。「普段何気なくやっていたことが脱炭素や環境保全につながっていた」ことに気づいていただいて、イベントにも協力していただけました。

✱4 詳しくは諏訪市HP( https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/101/60751.html

(左)市役所会議室にて。
   「以前は商工課や企画政策課に配属されていたのですが、その時の経験やつながりは今の仕事にも活きています。」(茅野さん)
(右)取材時(2月)の展示コーナーでは「デコツーリズム inすわ」のPRもされていた。

ゼロカーボン実験教室 ―脱炭素 plus 地元大学生―

―お話を伺っていると、取組みを通じていろんな方を“繋ぐ”ことを大事にされている印象を強く受けます。
他にもそういった取組みがあればぜひ教えてください。

茅野 そうですね。啓発活動は色々やっているんですが、今年度は親子を対象としたゼロカーボン実験教室「電池の仕組み~備長炭電池で発電体験~」✱5を開催しました。講師を公立諏訪東京理科大学の先生と学生の皆さんにお願いしたこともあり、子ども達は、年齢の近いお兄さんお姉さんに教えてもらいながら、とても楽しんでいたようです。

―地元の大学生が地元の子ども達に教える、理想的な取組みですね。

茅野 はい。公立諏訪東京理科大の学生は7割以上が県外出身者で、元々この諏訪地域との接点がない方々ですが、やはり諏訪地域6市町村による公立大学の学生として、地域で活躍してほしい。これは自治体職員だけでなく大学、住民みんなが感じていると思います。そんな中で学生が地域の活動に参加する機会を提供できたことは、人材育成、人材確保という面でも効果を発揮したかと感じています。もちろん、人材というのは小学生も、講師をしてもらった大学生もそうですよ。

✱5 当日の様子は諏訪市HP( https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/101/57642.html

置き配バッグで再配達削減 ―脱炭素 plus 働き方・非接触―

―脱炭素と組み合わせる要素によって、多彩な企画が生まれるのですね。
では、スマートムーブからは少しそれますが、車からのCO2削減で共通する「置き配バッグ活用実証実験」✱6のお話も聞かせてください。

茅野 テーマは「脱炭素」と「働き方」「非接触」です。置き配バッグを使うことで再配達が大幅に減り、配達時のCO2が削減されたことは大きな成果ですが、宅配業者の方々の業務の効率化と働き方改革にプラスになったことも重要です。実験実施はコロナ禍でしたので、非接触で荷物の受取りを行うことができたという効果もありましたね。また、実証実験は一昨年の夏から年末にかけて実施し、結果を昨年2月に発表しましたが、直後の4月が「再配達削減PR月間」(2023年 国交省)とされたこともあり、キー局のニュースで諏訪市の結果が取り上げられるなど、全国的に反響がありました。

―参加者の感想も教えてください。

茅野 「生活が便利になった」というコメントを多くの方からいただきましたし、「宅配業者の方に申し訳ないといつも思っていたけど、置き配のおかげで再配達がなくなり、気持ちが楽になった」という声もありました。もちろん、「再配達とCO2削減の関係を意識するいい機会になった」といった感想も。生活の質の向上と脱炭素社会の実現は両立可能だと気づいていただくきっかけになりました。

―脱炭素に関する取組みが生活の質の向上につながる、とても大事なことですね。

茅野 はい。どの取組みについても「単なる環境活動」にはしたくありません。環境に配慮した取組みはもちろん必要不可欠なのですが、取組みの先に、便利さや快適さ、そして事業者については利益を生むものでなければ協力を得られませんし、長く続かないと思います。

✱6 事業の詳細は諏訪市HP( https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/10/47231.html

春からはオンサイトPPAも始動!

―公用車のEV化や、リモートワークについてはいかがでしょう?

茅野 車庫と充電設備が少ないことが課題なのですが、公用車については、EVにPHEVやHEV等も加えた“電動化”を車両の更新に合わせて進めています。
供給する電力について、市役所は既に実質再生可能エネルギー100%なのですが、庁舎屋上に太陽光発電設備を設置中で、来年度には稼働する予定です。これにより、市役所の年間使用電力の約20%を賄うことができます。設置後の管理運用も事業者が行うオンサイトPPA方式✱7なので故障等のトラブルへの対応も安心ですし、災害時の電力源にもなります。PPAのような第三者所有方式は、太陽光発電やEV充電設備にありがちな「設置したけど、故障したらそのまま」という事態にならずに済むので、再エネの導入に有効な仕組みだと思います。
太陽光発電設備は諏訪中学校にも導入中で、こちらは年間使用電力の約50%を賄うことができます。校舎内に発電量のモニターを設置するので、天気と発電量の関係を探究学習のテーマにするなど、環境教育にも役立ててもらえるといいですね。実際に諏訪中学校では出前授業も行っていて、市や事業者のゼロカーボンに関する取組みについて学んでもらいました。文化祭で学習のまとめを発表されていましたが、生徒のみなさん、「環境だけでなく経済も考えなくてはならない」という良い視点をもっていましたよ。
リモートワークは、窓口対応が必要な部署が多いため、実施できる機会はそれほど多くないのですが、コロナ禍に対応する中で、実施できる体制は整ってきました。

(上)車庫に駐車中だったEV(左)と、庁舎屋上に設置中の太陽光パネル(右)
(下左)Web会議用のワークブース。Web会議の増加を受けて設置された。
(下右)屋上の一角に祠を発見!旧庁舎を土砂崩れから守ったとの謂れがあり、庁舎移転時に屋上に移設された。
   「職員互助会で管理していて、7年に一度、御柱も立てます。」(茅野さん)

✱7 公共施設の屋根や公有地に事業者(第三者)が太陽光発電設備を設置し、自治体は使用料に応じた電気料金を支払って、発電した電力を一般の電力系統を介さず直接使用するもの。電力供給契約を締結することからPPA(Power Purchase Agreement)と呼ばれる。
[出典]環境省「PPA等の第三者所有による太陽光発電設備導入の手引き(令和5年3月)」11頁
詳しくは環境省HP( https://www.env.go.jp/page_00545.html

協働の先に生まれる街「ゼロカーボンシティ」

―最後に、今後の展望を教えてください。

茅野 「諏訪市ゼロカーボンシティ宣言」では、温室効果ガス排出量を2030年までに2010年度比で60%削減し、2050年には実質ゼロにすることを目指しています。残された時間は多くないので、脱炭素に向けた取組みをさらに進めていかなければなりません。
とはいえ、取組みの全てを行政が主導することが良いとは考えていません。再生可能エネルギーにしても、市の公共施設は実質再生可能エネルギー100%を達成していますが、これは市全体の使用電力の1割にも達しません。脱炭素を実現するには、市民や企業の方々にどれだけご協力いただけるかが重要です。ゼロカーボンシティを作るための真のプレイヤーは、市民や企業の皆さんなのです。
ですので、我々行政は、市民や企業の方々の取組みが自走できるように後押しすることや、取り組みやすい環境の整備を役割と捉え、ニーズに合わせて支援していきます。
「ゼロカーボンシティ」は、市民・企業・行政の協働の先にこそ生まれるものですから。

―希望にあふれたお話をありがとうございました。これからも諏訪市の取組みに注目していきます!

(上左)市役所の隣にある名勝高島城。コアなファンに人気の城として先日テレビ番組で取り上げられた。
(上右)諏訪の街並みと諏訪湖。前日は雪だったが、取材時は運よく晴れ間がのぞいた。
(下左)長野市から諏訪市までは鉄道で約2時間半。なんとホームに足湯コーナー♨が。
(下右)市内各所に設置されている給水スタンド。これも「脱炭素 plus 海洋プラスチック削減」を目指す諏訪市の取組み。
    詳しくは諏訪市HP( https://www.city.suwa.lg.jp/soshiki/101/56450.html

取材させていただいた事業者

諏訪市 市民環境部 ゼロカーボンシティ推進室
〒392-8511 長野県諏訪市高島1-22-30
☏0266-52-4141
https://www.city.suwa.lg.jp/

長野県●令和5年度「マイカー移動からの転換等促進事業」